『考える』について

川久保 悠

サッカーの指導者が子供たちに『考えなさい』と指示をする場面を多く目にします。
そこで『考える』とは何か?
指導者が正しく『考える』を理解できているか?
子供たちに『考えさせる』前にまず指導者が『考える』ことを正しく理解する必要があります。
〈*辞書:『考える』=知識や経験などに基づいて、筋道を立てて頭を働かせる。結論を導き出す。あれこれと思いをめぐらす。〉
正しい『考える』とは『理解』に向かって『考える』ことです。
『考える』を『歩く』に置き換えると、『理解』は『目的地』を意味します。
ただ『考えさせる』ことは『目的地』の無い迷路を『歩かせる』ことと同じです。
子供たちに迷路を歩かせることはとてもかわいそうなことです。
ただ『考える』ことは最も簡単なことで、その行為自体に明確な意味はありません。
大切なことは『理解』に向かって『考える』こと。子供たちに『理解』という『目的地』を示して『考える』ことの意味を明確にすることです。
そして『考える』には『理解』という『目的地』があり、永遠に続くものではありません。
『1 + 1 = 2』 や『火 = 熱い』のようにすでに『理解』していることを人間は考えません。
『理解している』=『考えない』ということになります。
そしてその『考えない』ことに判断スピード、プレースピードを上げる大きなヒントが隠れています。
実際にトッププレーヤーは正しい意味で『考えない』でプレーしています。
良い例として、世界で最もクレバーな選手の一人のイニエスタ選手は『自分は何も考えずにプレーしている』とバルセロナ時代に言っています。
サッカーは『状況の把握・理解』→『最善な解決策の判断』→『実践』の連続です。
サッカーを理解しているトッププレーヤーは『状況の把握・理解』→『最善な解決策の判断』→『実践』のプロセスに『考える』が入りません。
反対にサッカーを理解していない選手は『状況の把握・理解』→『最善な解決策の判断』→『実践』のプロセスに『考える』が入り、『状況の把握』→『考える』→『状況の理解』→『考える』→『最善な解決策の判断』→『実践』となり、『考える』ことにより判断スピード、プレースピードが遅くなります。
トッププレーヤーの速い判断スピード、プレースピードのメカニズムの正体は『正しい理解』による『考える』行為の省略にあります。
注意することとして、正しく理解するまでは『考える』ことは必要で、理解した後も『理解』を深め続けることが大切です。

最後に、哲学の基本コンセプトに『最も正しい答えは一つであり、間違った答えは無限に存在する。』とあるように、無限の中から最も正しい一つの『答え/理解』を子供が見つけ出すのはほぼ不可能なことです。
正しい指導とは、無限に存在する間違えを一つひとつ注意する『間違えの消去法』ではなく、最も正しい一つの答えを説明して『理解』させることだと自分は信じています。
もちろん最も正しい答えは日々進化するもので、その進化する最も正しい答えを追求することが『哲学する』と表現されます。
日本サッカーの育成環境で迷っている子供を多く見ることから『正しく考える』ことについて書かせていただきました。
少しでも参考になれば嬉しく思います。

 

YUコーチ